日本発の世界的時計メーカーの雄シチズンは、時計が量的、質的に氾濫するこの時代にあって、多様な腕時計ブランドを展開しています。クオーツ式時計を中心としながらも、機械式腕時計をCitizenコレクションで発表し、より高精度なクオーツ式時計の追求をやめず、その成果であるEco DriveをコアブランドThe Citizenで展開しています。さらに、時計多様化の波に対応し、チープシチズンと呼ばれるブランドや、ファッション性の高いブランドまで幅広くその裾野を広げています。
日本産クオーツ式時計の雄、シチズン
シチズンは、セイコー、カシオと並ぶ日本が生んだ世界に冠たる時計メーカーの雄です。ぜんまいによるムーブメント独特の味わいがあり、華美にして重厚な知の集積で、かつファッショナブルなステータスアイテムであった、スイス産時計メーカーを中心とした機械式時計を、市場、いや人の生活圏から押しのけたのも、これらシチズンやセイコーのクオーツ式時計と言っても過言ではないでしょう。セイコー、シチズンの、丈夫にして高精度な日本産クオーツ式時計は、その見た目や形状も実用的で、相対的にシンプルなデザインの、使い勝手のいい道具に他なりません。
今では、技術の進歩と大量生産によって価格も安くなり、セイコーやシチズンをはじめとしたクオーツ時計は人の生活圏のいたるところに入り込んでいます。さらに、昨今のデバイスの普及です。パーソナルコンピュータやスマートフォンには、電波で自動的に時刻を調節してくれる時計が内蔵されています。これらは、スイス産を中心とした機械式時計の存在を脅かすのみならず、シチズンなどの日本産クオーツ式時計の存在をも脅かすものです。もう腕時計は正確な時刻を知らせる役割を他に譲ることにもなってしまったのです。
シチズンでも機械式時計はステータスアイコン
この時計の氾濫と変質は、3つの現象を招きました。ひとつには、正確な時刻を知る道具としての腕時計の役割が喪失されたことより起きたことです。機械式かクオーツ式か、高価か安価か、それらに関係なく、あえて腕時計を求める必要がなくなってしまったのです。結果的には、高級ブランドをはじめとした手の込んだ機械式時計の、ファッショナブルなステータスアイコンとしての地位を復権させることにもつながっています。
シチズンにおいても、この高級感、ステータスアイコンとしての機械式時計の追求をやめたわけではありません。スイス高級ブランドやセイコーに比べれば、クオーツ式時計、そして、大衆向けの時計が重きをなしているのがシチズンです。それでも、時計メーカーとしての技術の粋が顕著に見られる機械式時計は、装着者のみならず、シチズンにとってもステータスアイコンとなるのです。
そのブランドこそ、Citizen コレクションです。多くを展開しているわけではありません。シックでシンプルなデザインが中心で、むしろスイス高級ブランドやセイコーよりも、機械式時計の現代人にとっての意義を理解し、技術追求とステータスアイコンとして活用しているのがわかります。
より高精度なクオーツを、シチズンのコアブランドThe CitizenとEco Drive
ふたつめには、より高精度、より多機能、より高付加価値なクオーツ式時計の追求です。これこそ、シチズンの独擅場です。コアブランドとなるThe Citizenと、今後のシチズンのコアコンピタンスとも目される、Eco Drive技術とそのブランド。シチズンこそクオーツ式時計の追求をやめないメーカーと言っても過言ではありません。
一般のそれなりの性能のクオーツ式時計の月での誤差と、同じく機械式時計の日での誤差が同じ程度というのは、クオーツ式時計のすばらしさを証明するものです。しかしながら、そうした時計が世に氾濫し、スマートフォンをはじめとして人のより身近なところに正確な時刻が存在している現代にとって、これが如何ほどの意味を持つでしょうか。だからこそ、シチズンが求めたのは、より高精度、より多機能、より高付加価値のクオーツ式時計の追求なのです。
代表的なのは太陽光発電による駆動ソーラーテックと、電波受信による時刻調節を行う電波時計です。前者は電池が不要になり、後者は完全とまではいかないまでも、これまでの時刻調節に伴う時計の手間暇が軽減されます。他にも、これまでも存在したクロノグラフ的な機能をより深化拡大させることや、素材などにこだわり、強度を低下させずにより薄く軽くする技術の追求がなされています。こうして時計という価値の低下を補い、より高めようとしています。
これらソーラーテックに加え、素材を追求し確立された技術こそ、昨今のシチズンのコアであるEco Driveです。高精度クオーツ、太陽光発電、素材追求による薄さ、これら技術の粋を叩き込み、世に送り出されている時計ブランドこそEco Driveであり、これに準じるかたちで、コアブランドとして前線を張っているブランドThe Citizenもまた、Eco Driveの技術を取り入れ、進化が図られています。技術の粋を凝らしているだけあり、非常に高価格ではありますが、一見の価値ある腕時計に仕上がっているものばかりです。
チープシチズンQ&Qはコスパ最強腕時計
最後には、これら時計の価値低下を受け入れた上で起きていることです。一言で言えば、多様な時計が市場に出回るようになったのです。以前から起きていることではありますが、それなりの性能の腕時計がより安価に提供されるのは、嬉しい限りです。俗にチープシチズンと呼ばれるブランドQ&Qおよび、Q&Q solarの腕時計は、これの顕著な例でありましょう。数千円でシチズンのクオリティを提供してもらえるなんて、実は美味しいことだらけなのです。ユーザーからコスパの点で高評価を得ているのもよくわかります。
多様化するシチズン製腕時計、アクセなKii:、Wiccaと、クールなDrive from Citizen
また、腕時計を完全にファッション、自己表現の一部とみなし、アクセサリー的な安心できる性能の腕時計が比較的リーズナブルに提供されるようになったのも、こうした流れの一部でしょう。シチズンで言えば、女性向けに発表され、ユーザーから一定の評価を得ているKii:、およびWiccaは、その顕著な例です。
これらブランドは、シチズンのコアブランドであるThe Citizenや、Eco Driveからは考えられないような、華美でラグジュアリーなアクセサリーとしてデザインされています。ともに女性向けであり、Kii:が2万円から3万円台を中心とし、キレイを意識した腕時計であるのに対し、Wiccaは、1万円台から4万円台と幅広く、クリスタルガラスなどでキラキラしたカワイイを演出した腕時計になっています。
この他にも、北米中心に展開されるDrive from Citizenは、男性っぽいクールでギークなデザインが中心ながら、男女ともに受けがよく評価の高いブランドです。デザインのみならず、注目すべき点は、シチズンの誇る技術Eco DriveやThe Citizenなど、高精度技術の廉価版を意識した腕時計群ということでしょうか。
市民に寄り添う時計メーカー、シチズン
このようにシチズンは、あくまで従来の技術をコアとしながら敷衍拡大するスイス産高級時計やセイコーと違い、より高精度なクオーツ時計の追求をやめず、多様化する腕時計の役割の変質に対応していると言えるでしょう。この根底に流れているのは、社名の通り、市民、大衆に寄り添う時計メーカーであるということでしょう。