実はこんなに複雑!腕時計の仕組みについて

みなさんは機械式腕時計やクォーツ腕時計を持っていても、その中身の仕組みについて知っているでしょうか。何となく歯車が動いているイメージはあっても、どのようなパーツがあり、どのような仕組みでほとんど遅れも進みもせずに一定のリズムで動き続けているのか理解している人は、それほど多くはいらっしゃらないのはでないでしょうか。
時計は、機械式でもクォーツ式でも動きのテンポを保ち続けるためにとても複雑な機能を持っています。その仕組みを知ることが自分に合った腕時計選びの手掛かりになるかもしれません。そこで今回は腕時計の仕組みについて触れたいと思います。

機械式腕時計の仕組み

機械式腕時計の動力は、ゼンマイです。竜頭を通して巻かれたゼンマイが、腕時計の中のパーツを動かすことで時を刻みます。ゼンマイは厚いほど動力としての力強さがあり、長いほど長時間動きます。しかし、厚いと切れやすくもなるため、腕時計のゼンマイはごく薄く作られています。その代わり、歯車などがなめらかに噛み合っていて、少しの力でスムーズに動くようになっているのです。
ゼンマイは、香箱と呼ばれる歯車付きの入れ物の中に入っています。ここからの回転がいくつもの歯車に伝えられ、歯車の歯の数によって長針や短針といった針の進み方に変わります。さらに規則正しい動き方を司る部分にも伝わって、ゼンマイが一気にほどけずに長時間働き、一定の時間で動き続けるように調節もするのです。

ゼンマイの動きを一定に保つ機能は調速機といわれ、その中心部分をテンプといいます。テンプは動力源のゼンマイとは別の、ヒゲゼンマイが入っている車輪のような形をしており、ゼンマイから発生した力がテンプに伝わると、車輪部分は一方の方向に回転しようとします。しかし、ある程度回るとヒゲゼンマイが車輪部分を引っ張り、その反動で車輪は逆回転を始めます。その逆回転も回り過ぎないうちに、またヒゲゼンマイに引き留められて反対方向の回転に変わります。こうして、ヒゲゼンマイによってテンプが規則正しく回転の往復運動をすることで、腕時計は一定の動きをし続けます。振り子時計では振り子がこの役割を担い、それらをコンパクトにしたものがテンプです。

ゼンマイの力がテンプに伝わる前には脱進機という機構を通ります。脱進機はアンクルとガンギ車でできています。アンクルは逆さになったT字をしていて、水平部分の両端に入り爪と出爪が付き、この爪がガンギ車の歯車の歯と引っかかるような作りになっているのです。アンクルは左右に動けますが、最初の状態では爪がガンギ車の歯と噛み合って止まっています。ゼンマイの動力は、まずガンギ車を回転させようとすることで、爪を通してアンクルに力が掛かり、アンクルはテンプの車輪部分を回します。そして、テンプが往復運動で力を戻してくるので、アンクルは横に動き、ガンギ車を抑えていた爪が外れて、ガンギ車が回転し始めます。その時、アンクルが動いたことで下りてきた反対側の爪にせき止められて歯車ひとつ分しか進めません。そして、せき止められた力がまたアンクル越しにテンプに伝わり、その力が戻ってきてガンギ車を止めていた爪が外れ、ガンギ車は進むものの逆の側の爪にぶつかって止まるという動きを繰り返すことで、腕時計は規則正しく歯車を回して針を動かすことができるのです。

クォーツ式腕時計の仕組み

クォーツ式腕時計も、時を一定間隔で刻むために規則正しく動く機能を心臓部に作られ、歯車や針を動かしています。クォーツ式腕時計の動力は電気ですが、一定のリズムで動くのは「クォーツ」という名の通り水晶です。水晶には力を掛けて伸び縮みさせると、表面にプラスやマイナスの電気を発生させる性質があります。反対に、水晶に電気を流すと、表面が伸びたり縮んだりします。プラスとマイナスの電気を流す面を逆にすると、伸びる面や縮む面も逆になり、プラスとマイナスを交互に水晶に流すことで、規則正しい振動が得られるという仕組みです。安定した振動が起きるように、腕時計には不純物のない人工の水晶を使います。水晶に電気を流して発生する振動の数は非常に多いので、それを整理する機能もクォーツ式時計には備えられています。

クォーツ式腕時計に組み込まれている規則正しい振動を発生させる水晶は、水晶振動子といいます。水晶振動子から生まれた膨大な振動はIC回路でカウントされて、決まった数になると電気信号としてモーターに伝達されます。この振動数が決まった数になる間隔を1秒にしているため、モーターがチクタクという音を出しながら時計内部の歯車を送り、針が動いて時間を指し示します。機械式腕時計は、この針が動く音があまり大きくありませんが、クォーツ式腕時計で目立つのは、このような仕組みの違いのためです。1秒ごとにカチリカチリと動くので、音がより響いて感じられるのです。腕時計では、1秒ごとに針を動かしたほうが、ずっと動かすより内蔵されたバッテリーが消耗しにくいという理由もあって、音がするものが多いです。

同じクォーツ式腕時計でも、デジタルではまったく音がしません。これは、針を動かす必要がないので、音の原因になるモーターや歯車を使用していないからです。水晶振動子から振動を受け取ったIC回路は、そこで表示するための処理も行い、そのままデジタル時計の液晶部分に電気信号を送ります。IC回路には、時計以外の機能を持たせるのも難しくないので、デジタルの腕時計にはバックライトやストップウォッチなどが付いた多機能のものもめずらしくありません。しかし、それだけ電気をたくさん使うことになるので、時計機能だけのものより大容量のバッテリーを入れることになります。

まとめ

機械式腕時計は、もともとは水や重りなどを使って動かした巨大なものから始まり、ゼンマイやテンプなどの発明の歴史をたどって今の形になりました。精巧で狂いの少ない動きを腕時計のように小さい空間で行うためには、熟練した技術の重なりが必要になってきます。
また、精度に関しては、クォーツ式腕時計の方が機械式腕時計よりも高いと言われています。これまで、クォーツ式時計も最初は巨大でしたが、日本の時計メーカーが小型で安価なものを開発し、時計業界に革命を起こしました。クォーツ式時計の時間のずれは月単位ですが、機械式時計のずれは日単位で起こります。

そのため、精度を重要と考える人には、正確さを誇るクォーツ式腕時計が向いています。しかし、長い歴史によって培われたメカニカルな部分にロマンを感じる人ならば、機械式腕時計を選んで、時を告げる緻密なムーブメントを堪能するのも良いのではないでしょうか。