チープカシオ、チープシチズンなど、プチプラな時計が人気の昨今で、唯一あまり耳にしないのが、プチプラなセイコーです。しかし、セイコーにもそれに相当する時計ブランドは存在します。それがアルバ(ALBA)です。ALBAは、数千円からという低価格で、安定した品質とかわいらしいデザインを提供する現代の世相を象徴するプチプラなセイコーブランドです。
セイコーのチープ腕時計、アルバ
世界で初めてクオーツをムーブメントとする時計を製品化した、日本を代表する世界的時計メーカー、それがセイコーです。機械式時計の精巧さと高級感をその中心価値とするスイス系の名門時計ブランドと一線を画した路線を一貫してとり続け、現在の地位を獲得してきました。その象徴は、誰もが知るであろう『グランドセイコー』に結実されています。華美さ、重厚さを廃し、クオーツ、機械式ともに精巧さ、実用性に重点を置いた高精度な時計は、まさにセイコーのブランドイメージそのものであり、セイコーの時計観を体現したものでもあります。
華美で重々しいスイス系の名門時計ブランドと対をなす、無骨で実務的なセイコーですが、それは価格帯にも如実に表れています。とはいうものの、少しお高い。そして、一般的に腕時計をされない方も増えてきたのが現実です。腕時計は、“時を知る”ためのものだけでなく、ファッションアイテムです。時を知る手段が多くある現代だからこそ、クオーツや電波時計などにより、高精度が比較的簡単に手に入る現代だからこそ、比較的リーズナブルで、安定した精度をもったファッションアイテムとしての腕時計が求められています。
ここに来て、シチズンやカシオなどの国内時計メーカーが世に送り出し、そして、消費者に親しまれているのがプチプラアイテムとしての腕時計です。俗に「チープシチズン」、「チープカシオ」と言われる時計ブランドは、低価格で安定した品質の腕時計を消費者に提供しています。
セイコーの時計ブランドで、そうしたプチプラブランドこそアルバ(ALBA)です。数千円から高くても2万円以下という低価格で提供されるのみならず、安定した品質とセイコー主流のイメージである無骨さを感じさせないポップでかわいらしいデザインを主流としたセイコーの腕時計、それがアルバ(ALBA)です。
アルバの時計はチープでもセイコー
安くても舐めてはいけません。アルバは安くてもセイコーです。セイコーと言えば、クオーツでも機械式でも、精巧さと実用性を尊んできた時計メーカーです。スイスの公的機関COSC(コスク・スイスクロノメーター検定協会)にも引けをとらない独自の高い基準で生産された機械式時計に、通例でも機械式時計よりも時間のズレの少ないクオーツのなかでも、屈指のズレの少なさを誇るクオーツ時計。それらを世界に送り出しているのがセイコーなのです。
こうした品質の高さを誇るセイコーのカジュアルブランド、アルバは、価格こそ低価格ですが、電池式クオーツでは、一般的に平均月差±20秒にとどめ、同じく太陽光を動力源とするソーラーでは平均月差±15秒にとどめています。セイコーのアルバの時計には、ソーラー電波時計も用意されていますが、これも同じく非受信時平均月差±15秒の範囲にとどまっています。
クオーツ、ソーラー、ソーラー電波の3種類からなるアルバ。カジュアルさ、ポップさ、低下価格路線を基調としていますから、当然ながら機械式は用意していません。これがアルバです。
このアルバ時計のなかで、ソーラー電波時計はアルバらしさを凝縮した象徴的な存在です。価格も2万円をきる低価格帯で、現代を象徴するような太陽光で動き、電波で時間を調整してくれます。こうした現代的のテクノロジーを感じさせる時計でありながら、アルバの時計らしく、相対的に軽く、カジュアルな印象を与えてくれています。
このアルバを語る上で欠かせないのは、現代的で安定した品質のみならず、このカジュアルなデザインです。そもそも、セイコーがアルバに込めた意味とは、「スピーディで軽やかなスタイル」とのことです。これを体現するように、セイコーアルバでは、去る2013年に逝去したばかりの、あの20世紀を代表するプロダクトデザイナー渡辺力氏(1912年1月2日 – 2013年1月8日)のデザインによる時計群も存在しています。
渡辺力氏と言えば、日比谷日本生命本社にあるパブリッククロックで有名です。そのシンプルかつ、視認性の高い実用的なデザインは、氏の代表作とも言われ、ジャパニーズモダンを体現した作品とも言われています。
スタイリッシュで実用的な作風は、まさにセイコーアルバのコンセプトと合致するところです。渡辺力氏デザインのアルバは、「Riki」と銘打たれ、アラビア数字デザイン、和風デザインを中心にテイン展開され、シンプルで視認に優れたスタイリッシュな時計を、たった1万円程度で提供してくれています。なんという太っ腹ぶりでしょう。
アルバの時計、人気の秘密は?
アルバの人気の秘密は、アルバだけあってシンプルそのものです。チープでもセイコー、それだけです。値段に比して高い精巧さと、カジュアルなデザインのアルバは、時計の精度とデザインに特化した。そのコンセプトそのものがシンプルなのです。“腕時計を見て時を知る”ことこそ、現代の腕時計の役割として失われつつある、本来の腕時計の役割です。このシンプルな“腕時計を見る”をこの値段でシンプルに体現しているのが、アルバの時計です。機械式時計の精度と高級感にとらわれる余りに、腕時計の役割を“腕時計を見せる”という役割に変質させてしまったスイス系の高級腕時計ブランドと対をなすのが、セイコー自身のフィロソフィーです。グランドセイコー同様にこれを体現しているのが、アルバの時計です。これこそ、アルバの人気の秘密です。
アルバの人気時計は?
今ではファッションや食をはじめとして、人の日々の生活や感情の表出の場になっているのがインスタグラムです。おのずと人気アイテムは、多く取り上げられるようになり、それはハッシュタグなどで数値としても確認できるようになります。今回取り上げたセイコーとアルバもまた、#seikoや#seikoalbaなどでサーチすることで、人々の心と生活に多く影響を与えているのがわかります。
なかでもアルバの時計で人気なのは、やはりレディース向けのAEGD561。ソーラークオーツです。細めの赤い革製ベルトに、小柄でまるっこい本体。その小柄さに比して少し大きめのアラビア数字の文字盤表示がかわいいらしい腕時計です。そして、なによりも日常生活強化生活防水や時計の精度などのセイコーらしい高品質さ。これでおよそ5,000円なのですから、そらおそろしい時計です。最後に、このアルバの時計、仰々しい個々の名称など存在しません。ムーブメントと型番のみ。シンプルそのもの、それがアルバです。
アルバの時計は、チープ、シンプル、セイコー
何も言うことはないんです。腕時計を“見る”ものから“見せる”ものに変質させてしまったスイス産高級ブランド時計に対抗する必要上から、シンプルに時計を見ることに特化し、寄り添ったのがセイコーです。その低価格路線の代表ブランドこそがアルバです。安定した品質、最低限の機能、シンプルで軽やかなデザイン、これら最低限の要素を厳選したシンプルな設計思想を持ったアルバは、そのシンプルさ故にセイコーのなかでも屈指のセイコーらしさを体現する面白さを見せてくれています。だからこそ、チープカシオやチープシチズンに比べ、価格が高いにも関わらず一定の評価がなされているのでしょう。